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腰部脊柱管狭窄症

  腰部脊柱管狭窄症(腰椎変性すべり症を含む)

 脳からの神経は背骨に守られて首から腰まで走っています。背骨の管の中(トンネル)を神経が走っているのです。年を取ってくると、椎間板が変性したり、骨の棘がでてきたり、周りの靱帯がふくらんで来て、トンネル自体が老朽化して狭くなります(図5。その結果トンネルを走っている神経は真綿で首を絞められるように圧迫を受けます。これが腰部脊柱管狭窄症という病気の本体です。

(図5)腰部脊柱管狭窄症の原因

 

1.症  状

1)間欠性跛行(図6)(ある距離を歩くと下肢がしびれてきて、腰が曲がってくる。

   坐位などの短時間の休息で軽快します)

2)下肢のしびれ(立位や歩行で増悪し、臥位や坐位で軽快します)
3)排尿障害(前立線肥大との鑑別必要です) 
4)腰痛(全くない人もいます)

 

 症状の特徴は診察室での安静時では腰痛や神経症状を全く認めないのに、立位・歩行により症状が発現することが多々あるということです。したがって病院では全く相手にされないこともあります。また自転車なら長時間乗れる人が多いのも特徴の一つです。

 

(図6)間欠跛行

     

 

2.検  査
1)MRI検査(図7)
 脊柱管の狭窄の状態、神経の圧迫の程度、椎体や椎間板の変性の度合いなどが明確に
 描出されます。診断には最も有用です。
 
2)エックス線検査;
 狭窄そのものの診断には役に立ちませんが、各椎間板の不安定性や椎体のすべり症など
 治療に参考となる情報はたくさんあります。
 
3)脊髄造影検査およびCT(図8);
 手術を行う前の術前検査として行われます。姿勢によって、神経がどのように圧迫され
 ているか。圧迫の原因が骨棘なのか黄色靱帯なのか。椎体間のすべりや不安定性がある
 かなど、詳細な情報を得ることができます。

 

(図7)MRI検査

図8)脊髄造影検査およびCT

 

3.治療について
 治療は下記4「薬剤について」の薬物療法が主体になります。足のしびれが強い場合には神経根ブロックが著効する場合もありますのが、歩行障害や日常生活に支障がでる様であれば、手術療法を選択する場合もあります。
 また症状が強い場合には足趾の高度麻痺(足趾に力が入らない)、膀胱直腸障害(排尿困難、便秘)を合併する場合があります。この場合には手術が必要となります。手術では神経の圧迫を強く受けている脊柱管の部位を顕微鏡もしくは内視鏡を使って、圧迫している骨や黄色靱帯などを取り除く方法が主流です。術前のX線検査や脊髄造影X線検査などで椎間板の強い不安定性やすべり症を認める時に除圧と椎間固定術(変性をおこしている椎間板をすべて摘出して、骨移植をして椎間を固定する)を併用する場合があります。

 

4.薬剤について
 痛みの程度によって消炎鎮痛剤(痛み止め)を処方します。しびれなどの神経症状に対してはビタミンB12やプロスタグランジンE1製剤の内服が著効する場合もしばしばあります。

 

5.病気について
 腰部脊柱管(脊髄の神経が通るトンネル)は前方の椎間板が変性してふくらんできたり、後方椎間関節が肥大して神経の方へ飛び出したり、黄色靱帯が厚くなって、最終的に狭くなってきます。脊柱管の中を走る神経は圧迫を受けて、神経の血流が低下して、下肢のしびれなどの症状が発現するといわれています。この病態がわかってからプロスタグランジンE1製剤などの血流をよくする薬剤が有効であることが明らかになりました。また腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状である間欠性跛行は閉塞性動脈硬化症でもおきます。鑑別が少し困難ですが、腰椎の姿勢に関係しておこるのか、下肢の運動に関係しておこるのかで、ある程度判別します。たとえば自転車なら楽に乗れるのが腰部脊柱管狭窄症で自転車走行でも下肢痛が出現するのは閉塞性動脈硬化症の可能性が強くなります。足背動脈など末梢の拍動が触知できないときには、上肢と下肢の血圧比(ABPI)検査が有用です。最近では腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症の合併した症例もしばしば経験しますので、疑わしい場合には整形外科と血管外科の両方で検査を受けられるのをお勧めします。